![湘南から始まる、身近な現代アート。『テラスアート湘南アワード』が見据える、暮らしにアートが溶け込む未来 | 湘南と。](https://shonan-terracemall.pictona.jp/uploads/images/resized/1890x1260/shonan/000002/000002/c834c376.jpg)
2024年の今年で3回目の開催となる、『テラスアート湘南アワード』。このアートアワードは、テラスモール湘南を舞台として、自然と共生する新しい価値・文化を発信する、次世代を担うアーティストの発掘を目的としています。
開催する度に個性豊かなアーティストが参加し、テラスモール湘南を訪れる多くの方の目に触れることで、湘南の街に根差してきたこのアートアワード。でも、その背景にあるアワードに込められた想いについては、これまであまり語られることがありませんでした。
そこで今回、『テラスアート湘南アワード』の持つ意義や魅力を、企画者・審査員・アーティスト、それぞれの視点から立体的に描いていきたいと思います。
企画プロデュースをしている『株式会社The Chain Museum』の竹谷安澄さん、インディペンデント・キュレーターであり審査員を務められている戸塚愛美さん、そして2024年度のグランプリ受賞者である紀平陸さんの3名に、お話を伺いました。
湘南の日常の中で、アートを自由に楽しむということ:企画者・竹谷安澄さんの視点
竹谷安澄
株式会社テー・オー・ダブリュー、株式会社電通、Media Conciergeにて、OOH Ambient / イベントを主とした企画制作を経験。PR・クリエイティブ視点での空間・体験づくりを得意とする。2020年9月よりThe Chain Museumに参画。
「現代アートって、画廊とかギャラリーに行かないと触れられない、ちょっとハードルが高いものですよね」。
竹谷さんは、そう話を始めました。アートとは、足を踏み入れにくい場所にあるもの。私たちの日常とは距離の遠いもの。「だけれど、生活の中の身近な場所でアートに触れることができたら、きっとアートとの距離って近づくと思うんです。それができたら、心が豊かになると言ったら大袈裟かもしれませんが、もっとアートを日常的に楽しめる人が増えるはずだから」。
生活の中でアートを楽しむための企画を数多く仕掛ける竹谷さんたちが、暮らしの中で訪れる場所の一つとして選んだのがテラスモール湘南でした。湘南を舞台に、今はまだ眠っている才能を掘り起こしながら、現代アートを身近なものにしていく。そんな想いで、『テラスアート湘南アワード』は生まれました。
「自然豊かな湘南の街で開催するアートアワードは、日々の延長線にあって肩肘張らない温度感のあるものでありたいなと考えています」。必ずしもアートが好きな人だけが訪れる訳ではない「テラスモール湘南」だからこそできる、現代アートの身近な楽しみ方の可能性をこの場所から広げていきたいと、竹谷さんは真っ直ぐな目で話してくれました。
その可能性の一つが、サイト・スペシフィックな部分にあります。「商業施設というアーティストにとっては難しく、だけど挑戦しがいのある面白い展示場所です。この場所でこういう表現もできるんだという、アートの可能性が広がるアワードだと感じています」。
フラットなギャラリーではなく、特定の場所で、その特性を活かして制作する表現という意味を持つサイト・スペシフィックな点は、確かにこのアワードの大きな個性の一つです。
「だからこの展示では、上質な違和感を楽しんで欲しいと思っています。日常の中で訪れる場所で、本来はそこに無いものが、ある日突然現れる。なんでこんな所にこんなものがっていう、純粋な驚きを楽しんでくれたらそれだけでも十分だと思います。例えばこの場所にただ綺麗な絵が飾られていても、「きれい」なだけで印象に残らない。そうではなくて、この場所だからこそ面白さが膨らむアートを、気軽に楽しんで欲しいと願っています」。
そして同時に、この大胆な館内展示の作品からは、テラスモール湘南が本気でアートに取り組んでいるという姿勢が垣間見えてきます。
「人それぞれ感じることは別々で良いですし、ここで生まれた感情を暮らしに持ち帰っていただきたいです。『テラスアート湘南アワード』に触れた一人ひとりの気持ちが、毎年このアワードを楽しみにしてくれるようになったら、何より嬉しいですね」と、竹谷さんは優しく笑っていました。
感覚的な美しさだけではなく、この地で表現する意味を突き詰めていく:審査員・戸塚愛美さんの視点
戸塚愛美
インディペンデント・キュレーター。公共空間における展示のあり方や観客の設定に関心を寄せ、サイトスペシフィックな展覧会やアートプロジェクトの企画・運営に携わるほか、多世代を巻き込んだラーニングプログラムの実践を行う。2021年より、テラスモール湘南での地域のリサーチによる現代アート作品展示「Terrace Art」のキュレーターを務める。NPO法人BARD代表理事。
キュレーターでありこのアワードの審査員である戸塚さんが考える、『テラスアート湘南アワード』にとって大切にされていることとは何でしょうか。
「現代アートの作品づくりは感覚的なものと思われるかもしれませんが、実はその前提となるリサーチのプロセスがとても大切です。まずは地政学や歴史や文化などのこの街が持つ背景を知り、その土台の上に作品を展開していくことが、街に根差したアワードでは特に必要になってくると思います」。
湘南という街を、どのように解釈して、どのように表現していくか。その部分に主眼が置かれていると戸塚さんは話してくれました。「例えば、湘南という街に対して想起される「海」や「自然」はイメージしやすいテーマではありますが、この街の持つ文脈・背景はそれだけでは無いはず。アワードに集まる様々な角度からの街への視点を、複数の審査の視点で見つめていく。その過程がとてもユニークなアワードだと思います」。
審査員は、それぞれ芸術を専門分野に活動している方々ですが、アカデミックな視点や、商業施設ならではの
マーケットの視点を持つ方など、様々な視点をもつ方々がいらっしゃいます。「三者三様の視点からの議論は毎回白熱して複雑で興味深く、とても丁寧に時間をかけて行われています。審査の過程を通して、私たちも含めてこのアワード全体が湘南という地に近づいていく作業をしているように感じるんです」。
地域に向き合うロジックの部分と、直感的に面白いアプローチと思える感覚の部分。『テラスアート湘南アワード』においてはその双方に対する熱量が大切にされていて、逆にキャリアの有無などは関係なく、様々な作品を同一の視点で見つめていくそうです。
戸塚さんに、テラスモール湘南での現代アートの楽しみ方についても聞いてみました。
「現代アートは難しいとよく言われるのですが、最初の楽しみ方としては知識を抜きにした好き・嫌いから始めて良いと思っています。お買い物ついでにふらっと眺めてみて、その緩やかな姿勢でアートに触れながら、自分がどのように感じるか観察してみてください。アートに正解は無いので構えずで大丈夫。自分の感覚を大切にしながら、その次は一歩踏み込んで作品のキャプションを読み、作品ができるまでのプロセスに想いを馳せていただければと思います」。
日常の延長線上にあるアートアワードだからこそ生まれる、現代アートと身近に向き合う時間。この時間こそが現代アートと暮らしを近づける第一歩であり、『テラスアート湘南アワード』が大切にし続けていく軸となる価値そのものかもしれません。
誰もが気軽に参加できて、アートの未来へとつながるアワードへ:受賞者・紀平陸さんの視点
紀平陸
2000 年三重県生まれ。建築設計をバックグラウンドとして、アルゴリズミックデザインを研究している。自然法則というアルゴリズムを用いて形を計算する。自然と共同設計し、自然現象とのインタラクションによってまだ見ぬ現象 ,彫刻を探求する。
この写真の作品が、『テラスアート湘南アワード2024』受賞作品である、紀平陸さんによる『Shonan Beach Sculpture』です。
砂浜に落ちる雨を人の手によって制御し、自然現象の一部分に干渉することで自然だけでは成し得ない形の可能性を模索したものです。自然というテーマから一歩踏み込んで、時間の流れや天気の変化、そして人との関係性の中での変化までを捉えた様が、作品に触れる人の心に「湘南」という地を想起させてくれます。
そんな紀平さんの作品ですが、『テラスアート湘南アワード』に応募したきっかけは自然の成り行きだったと話します。「今までアワードというものに参加したことは無かったのですが、応募のしやすさもあって気軽な気持ちで参加してみました」。
このアワードの大きな特徴の一つとして、未発表作品以外にも既存の作品や企画書の段階でも応募することが可能、というものがあります。実際に紀平さんも、今までの作品を資料にまとめる形で応募しました。
他にも湘南エリア以外の方も応募することができたり年齢制限も設けていないので、挑戦するハードルが低く幅広い層の方が参加しやすいアワードとなっています。
そんな『テラスアート湘南アワード』は、紀平さんにとってアーティストとして成長するという意味でも大きな価値がありました。「作品に順位を付けて終わりというアワードとは違い、与えられた場所で多くの人に届けるための試行錯誤の過程を通して、複数の視点を持ちながら受け手も意識した作品づくりの経験を積むことができました」。
当初は映像の展示になる予定だった作品ですが、話し合いを重ねた結果、実際にテラスモール湘南内に砂浜を再現することになったそうです。
「自然の中でつくってきた作品を商業施設の中で再現するためには、作品の再解釈をはじめ多くのハードルがありましたが、企画者である竹谷さん達が最後まで伴走してくれました。海という文脈から引き剥がされて、大きな商業施設という文脈に接続された不自然な大きな砂の塊が、見ていただく方にどのように受け取っていただけるのか楽しみです」。
そしてアーティストにとっても、不特定多数の人の目に作品が触れることは、とても喜ばしいことだと話します。「会期中の時間経過と共に、もしかしたら自然の揺らぎの中で作品の砂山の形が崩れて変わっているかもしれませんし、そうなったら面白いですよね。普段はアートに触れる機会の無い子どもたちが、日常的にテラスモール湘南に通う中でそんな変化に気づいてくれたり、暮らしの中で自由にアートに触れてくれたら嬉しいなと感じています」。
特にファミリー層が多く訪れるテラスモール湘南のアートアワードには、普段ギャラリーには足を運ばない子どもたちが、日常の中でアートに触れられるという未来への希望があります。そんな大きな可能性までも、『テラスアート湘南アワード』は担っているのです。
湘南のアートカルチャーを盛り上げていく。“この街”のアートアワードをぜひ一緒に楽しみましょう!
3人の話を伺う中で、『テラスアート湘南アワード』の個性や未来が見えてきたのではないでしょうか。それぞれの視点は違えど、このアワードが長く街に根差して欲しいという想いを3人が共通して話してくれたことが印象的でした。
時間をかけてこの場所から湘南のアートカルチャーを盛り上げていくことが、湘南の街の暮らしをもっと豊かなものにしていくことにつながるはず。
湘南からアートの身近な楽しみ方を伝えていく、『テラスアート湘南アワード』。ぜひたくさんの方に、楽しんでいただけたら嬉しいです。
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『テラスアート湘南アワード2024』
⚫️受賞作品展示期間
2024年10月4日(金)~12月25日(水)
⚫️展示場所
テラスモール湘南1F東モール、1F北エスカレーター横、東モール吹抜