都内でも逗子でも。オンオフ問わず着たい服
逗子に店舗とアトリエを構え、展示会やオンラインストアでの販売を通して今では全国にファンを増やしているファッションブランド、『&her(アンドハー)』。
“東京と逗子どちらでも着られる服”がコンセプトだという&herの服は、洗練された個性の光るデザインの中にも、着心地の良さやお手入れのしやすさ、着こなしの幅の広さといった機能的なこだわりが随所に詰め込まれています。
ブランドを手がけるのは、逗子在住の関れいみさんご夫妻。長くファッション業界に身を置いてきたおふたりが二人三脚で商品開発からブランディング、販売までを行っています。
「湘南というと、例えばリネンのドレスのようなナチュラルなファッションを想起する人が多いのではないでしょうか。それも素敵なんだけれど、大抵の人は都内へ出る時には服のチョイスが変わるんです」と関さん。湘南にいる時も、都内に出る時もこの服、とオンオフを分けずにどちらのシーンでも着られる服がクローゼットにあれば。そう思って服づくりをされています。
トレンドを意識し洗練された都会と、そんな都会から離れ自分らしく気を張らずに過ごせる地元。そのどちらにいても「おしゃれをしていたい」。そんな願いを叶えてくれる&herの服は、関さん自身の経験や願いから生まれたものでもあります。
「手を伸ばせばいつでもすぐに都会的なものに触れることができる。逗子に来て田舎にいるという感覚はなくて、行き来できるバランスがちょうどいいんです。そんな気分にもフィットする服をつくりたい」。
2児の母である関さん。平日には山の中にある保育園へ自転車を走らせ子どもを送迎し、夫婦で&herへ出勤。休みの日には海へ行き子どもたちと遊ぶ。人との繋がりも豊かで、引っ越してよかった!と湘南暮らしの良さを実感する日々。でもだからこそ、相反する都会の洗練されたものや文化的なものに触れるよさも感じるのだといいます。
「最近ではさまざまな地域の方から『こんな服が欲しかった』と喜びの声をいただいています」。
お客様一人ひとりの顔を思い浮かべながら、次はあれをつくりたい、これは喜ばれそうだとイメージが湧き上がり、多い時では月に15もの新作をリリースすることもあるのだとか。今日も、関さんは逗子で暮らしながら次のアイテムのことを考え続けています。
一人ひとりに寄り添う、頼れる街の服屋さんに
逗子に暮らし始めて10年ほどになるという関さん。以前は都内に住んでいましたが、第一子の出産を機に逗子へ引っ越してきました。
「湘南暮らしへの憧れや移住願望というのは全くなかったんです」。逗子には全く縁がなく住むことを考えたことすらなかったという関さんですが、旦那さんがたまたま見つけてきた物件が気に入り、「自然豊かな街で暮らすのもいいかもしれない」と考え出したそうです。ここに通わせたい!という保育園に出会えたことも後押しをしてくれました。
あれよあれよと逗子暮らしが始まり、平日は子どもを保育園へ預け都内の職場へと通勤していた関さん。旦那さんが病気で倒れるという思いもよらぬ事態に、次なる転機を迎えます。
「一度しかない人生。どう過ごしていきたいか?徹底的に向き合う機会を得ました。家を構えている逗子を拠点に仕事も暮らしもつくっていきたいと、自然と考えるようになったんです」。
それまでに10年以上、洋服を扱う仕事に携わってきた関さん。「いつかお店をやりたい」と考えていましたが、いつかではなくやるなら今だと、それまで勤めてきた会社を辞め『&her』を立ち上げました。「ちょうど第二子の妊娠中でしたが、夫も会社員を辞めて一緒に会社をやることが決まっていたので、止まっちゃいけない、どんどん形にしないとと必死でした。産前も産後もとにかくがむしゃらに働きましたね」。
長く愛されるお店、ブランドになるにはどうしたらいいか?これまで大手に勤め、お客様の反応の見えない服づくりや大量に消費されていく服づくりにも触れてきた経験から、&herではできる限り人の温度感を伝え、個人に寄り添い、信頼できる街の服屋になりたいと考えていました。
そんなの無理だよと同業者に言われた1cm単位での裾上げやサイズ調整を行うセミオーダー、商品に添える手書きのお手紙など。一人ひとりに向けたサービスをストイックに、そして丁寧に積み上げて今日に至ります。
「引っ越してきた時も今も、湘南って感度の高いおしゃれな人が多いなあと感じています。そんなみなさんに選ばれる服屋であり続けたい。ひいては、オンラインストアを通じて住まう場所に関係なく頼れる服屋になりたい。逗子から全国へ、活動の機会をどんどん広げていきたいと思っています」。
&herを覗けば、どの季節にも気持ちが上がる新しい服に出会える。裾上げや補修など服にまつわることならなんでも気軽に相談に乗ってもらえる。そんな、一人ひとりに寄り添った頼れる服屋であり続けたい。&her立ち上げから8年ほどがたった今、その願いは多くの人に届き、今では北海道から沖縄までさまざまなお客様に支持されています。
&herがあるから、この街が好きになる
展示会やお店で実際に多くのお客様と出会い会話する関さんは、移住相談に乗ることも多いのだとか。
「私が引っ越して来た時、『素敵だな、かっこいいな』と憧れる人たちが既にこの街に住み商いをしていたんです。AND THE BRICKSの綾さんや日用美の浅川さんもそんな人たちのひとり」。
単なるローカルのいいお店、ではなく、都会のお店と並べても遜色ないような素敵なお店。第一線で活躍するプロフェッショナルたちも多く住まう湘南。この人がいるから湘南に住んでよかった。こういうお店があるから湘南に住んでみたい。関さん自身がそうだったように、『&her』が誰かの背中を押したり街を好きになるきっかけになったら嬉しいと話します。
「最近、長男が将来は洋服屋をやりたいなんて言い出したんです」。どこか嬉しそうに話す関さん。&herで働くスタッフさんたちも、元々は&herのお客様でした。
&herの存在が、そして等身大で湘南に暮らし、子育てをし、働く関さんの存在が、これからもたくさんの人の憧れの的となり、背中を押していくことでしょう。
PROFILE
セミオーダーを中心に、ひとりひとりに寄り添う服を提案するレディースブランド「&her」を主宰。
着心地がよくリラックス感がありながら、美しさと女性らしさが息づくスタイルを提案する。神奈川・逗子にアトリエを構え、不定期にオープン。@and__her/ @reimiseki