グランプリ
夜、賑やかな人波に対して、湘南の海が、深く沈んでいくように見えたことが印象的だった。
そして、海の煌めきが、行ったり来たりを繰り返す人そのものに見え、海の上をすべるように、街になっていく想像をしたことがきっかけで制作に取り掛かった。それは自然と人の関わりそのものであり、私にとっては素材とのやりとりそのものではないかと考えた。
紙に切り込みを入れ続け、インクに浸し、集積させ、全体のかたちと色合いを確認しながら、さらに紙の長さを調整する。紙を、紫色のインクに中間まで浸すと、黄、緑、ピンクの順で、白い紙を侵食していく様子がわかる。浸透圧による色の変化は、膨大な時間を定着させる。そうして、集積させた紙はまるで島のように現れた。また、紙にインクを含ませる行為そのものが、植物に水を与えているような感覚を持ったことから、植物の葉や蔓が伸びるようにその先にある時間を想起させ、まるで花が咲くように残るのではないだろうか。
兵庫県出身、東京都在住。彫刻家、アーティスト。
経歴
2018 日本大学芸術学部美術学科彫刻コース 卒業
2020 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻 修了
2023 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程彫刻専攻 修了
受賞歴
2023 野村美術賞 受賞
2020 藝大アーツイン丸の内2020三菱地所賞 受賞
2019 平山郁夫奨学金 授与
2018 公益財団法人北野生涯教育振興会彫刻奨学金 授与
2017 国際瀧冨士美術賞特別賞 受賞
個展
2023《野村賞受賞記念展》(aaploit/神楽坂)
グループ展
2023《NOMURA ART CONNECT 2023 野村美術賞展》(鉄鋼ビルディング/丸の内)
2022《東京藝術大学大学院美術研究科博士審査展2022》(東京藝術大学/上野)
2021《柳瀬山荘と彫刻》(柳瀬荘/所沢市)
2020《第68回東京藝術大学修了展》(東京藝術大学/上野)
《芸大アーツイン丸の内》(丸の内ビルディング/大手町)
2019《石・土・金 多様な素材の中で》(gallery SOL/銀座)
2019《tokunsterlem》(ヴェストファーレン・ヴィルヘイム大学/ミュンスター)
2019《公益財団法人北野生涯教育振興会 彫刻奨学生作品展》 (日本大学芸術学部/江古田)
2018《東京五美術大学連合卒業 ・修了展》 (国立新美術館/六本木)
コレクション
2022 東京藝術大学美術館 収蔵
2021 チャームケア御殿山 エントランス
2019 山梨県笛吹市 大窪いやしの杜公園
2018 西馬込Ⅴプロジェクト[アジールコート西馬込]マンションエントランス
その他
2019 神山アートインホテル/レジデンス
国際彫刻研究プロジェクト参加(ミュンスター)/レジデンス
スタンレー電気株式会社/作品レンタル(2019.05-2020.05)
東海さるく(延岡、宮崎県)/レジデンス・ワークショップ
2018 Big on Bloor Festival(トロント、カナダ)/ワークショップ
グランプリの植松美月さんの《わきたつ》。
本作は、海の水面の煌めきが、あたかも人の往来のように見えたというところからはじまる。自然と人との関わりが作品として具現化され、素材との対話を導いている。紙に染み出した色の浸透が、蓄積された時間をかたちづける。生き物のように蠢き、繁茂するイメージの惹起は、見るものの想像力が「わきたつ」ことを推し進める。
準グランプリの小松未季《呼気を置くこと》。
作家自身に根付いている湘南の思い出をもとに、手繰り寄せ、生成されたかたち。石の景色を引用し、無為の自然にあたらしい物語を紡いでいる。自身の体で経験した繊細な自然のゆらぎは、丁寧にひも解かれ、息を与えられているようだ。湘南の自然のもつ、たくさんの気づきから生の手がかりを読み替え、美しい時間を呼び起こしている。
どのように湘南に接近し、表現としてかたちづけているか。湘南の街に向けた独自のまなざし。見るものにゆらぎと奥行きを与えながら、結晶化した表現。秀逸な2人の作品を、テラスモール湘南でぜひご覧いただきたい。